6年間のテーマは
「解放」「挑戦」「深化」、 たっぷり「学ぶ喜び」を体験させます。 |
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明星小学校校長 清水正人さん ![]() |
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──門で守衛さんに厳しいチェックを受けましたが、やはり不審者からの防衛対策ですか。 清水 以前、大阪で大きな事件が起きましたが、その日のうちにすべての教職員に指示し、月曜日から帰りのバスに担任教師が乗り、駅で親御さんに児童を引き渡すようにしました。各学年とも3クラスあり、バス利用は全校生徒の約3分の2です。1年と2年の担任教師がローテーションを組んでバスに同乗するようにしました。 ──事件発生3日後にはそういう対応を取ったのですか。 清水 ええ、父母には、お預かりしている児童の安全対策について、月曜日の朝プリントをつくり、その日のうちに児童に持たせました。構内の安全チェックにも着手しました。 ──ずいぶん早い対応ですね。 清水 私立の良さというか、本校の強みですね、それは。話し合って決まったことは全教職員で取り組みますから。それと、私どもの場合、昨年7月から校舎の新築工事をしていますから、いろんな人の出入りがあります。それに紛れて変な人が入ってくる危険も考えておかなければいけません。このため、下校時だけでなく休み時間や昼休み時間にも、先生方が交代で校庭に出て児童を見守っています。 |
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●新しい教育システムの校舎を建てる ──新校舎は平成14年8月に完成予定だそうですね。
清水 ええ。21世紀を背負う子どもたちのために何が必要なのか。何年も前から教職員の間で検討してきました。まず、手をつけなければいけなかったのは、古い校舎は手狭になっていたことです。30年前に比べると、子どもたちの体格が大きくなったことと、教科書が大判になってきたため机が小さくて使いにくくなっています。また、学年全体で行動するときや少人数制授業のときなど、いろいろなニーズに合わせて移動することが少なくないのですが、その場合、今の教室ではどうしても使い勝手が悪い。このため教室のスペースは、現在約64平方メートルですが、これを最低でも90平方メートルという広さにしました。
──かなりゆったりしますね。 清水 ええ。それに1、2年生の教室では、教室と廊下の間の壁を取り除いて開閉自在の仕切りにしました。ただ3年生以上はそこまで開放的にする必要はありません。とくに5、6年生は、中学受験を控えて学力をつけなければならない時期ですから、教室と廊下の間には仕切りがあります。 ──1、2年生の時期は、教室と廊下の間に仕切りがないほうがいいんですか。 清水 私どもの場合、“くぬぎの時間”という体験学習があるんですが、120名全員が参加する場合もあるし、40名ずつ3グループにわかれて活動することもあります。多角的な授業形態をとりますので、廊下との境がないほうが使いやすいのです。 ──新校舎の目玉は何ですか。 清水 校舎中央に吹き抜けプラザがあることです。在学生、卒業生、父母、教師が集えます。人の和が生まれます。 ──今この時期、思い切った決断ですね。 清水 ええ、これまでは教育内容の充実など中身に一生懸命取り組んできたのですが、やはり施設や設備などの環境も充実させなければいけないと考えたわけです。
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●「くぬぎの時間」で感動を体験させる ──ところで、「くぬぎの時間」というのは‥‥。 清水 学校の周辺にくぬぎの木が多いことから、そう名付けたんですが、要するに体験学習の時間です。月曜日の午前中の4時間をあてています。我々が子どものときは、近くには原っぱもあったし、小川もあった。蛇もいたし、魚取りもした。子ども心にも感動するという場がたくさんありましたね。しかし、都会ではコンクリートばかりで土がない。どろんこ遊びもできない。かわいそうです。ならば、我々が感動する場を作ってやろうと20数年前から始めたのが「くぬぎの時間」です。 ──どんなことをやるんですか。 清水 例えば近くに散歩に出掛けて、ドングリの実を拾う。「誰が一番多く拾った?」「Aちゃん!」「じゃあ、ちょっとしか拾えなかった子にわけてあげようか」と。算数の時間で足し算の練習のときに、そのドングリが役に立つ(笑)。ですから、「くぬぎの時間」というのは単なる遊びじゃなく、基礎・基本の学習と一体になっています。 2年生では米づくりをしています。実際に田圃に籾をまいて、ときどき草を取って、刈り取りまで体験させています。「くぬぎの時間」をもうけたのは、当初1、2年生だけでしたが、この時間はみんながイキイキとしているんですね。卒業して何年も経ってから、あの時間が一番楽しかったという話も聞いていましてね、全学年にひろげました。
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●1、2年生には、学ぶことの喜び、楽しさを体験させる ──こちらでは小学校6年間の指導方針として、1、2年生は「解放」、3、4年生は「挑戦」、5、6年生は「深化」をキーワードにしていますね、それぞれどんな狙いがありますか。 清水 まあ、それこそ「お受験」をくぐり抜けて来ていますからね、この子達は。まずちょっと解放してやろうと(笑)。1、2年生は何が大切かというと、いろいろなことに感動すること、学ぶことの喜び、楽しさ、すばらしさを体験してもらう。そして「学校って友達がたくさんいて楽しいね」と感じてもらう。3、4年生では、心と体を「しなやか」に伸ばしてあげる。 この時期は学校にも慣れていろいろなことに関心が広がりますから、あれはダメ、これもダメと大人がブレーキをかけずにやりたいことにチャレンジさせる。極端なようだけれど、右を向けといったときに左を向く子がいてもいい(笑)。そして5、6年生はこれまでの積み重ねの上に学力の充実を図る。この間に学ぶ喜びも体験しているし、どんなことにもチャレンジするという意欲も育っていますから、知的な面での充実を図ります。 ──「くぬぎの時間」の体験学習は、本当は、家庭でやってほしいところでしょうね。 清水 しかし、時代がちがいますからねえ。
──今の子は田んぼに素足で入るのをいやがりませんか。 清水 私が子どものころは、擦りむいて血が出てもなめておけば、それで治った(笑)。しかし、最近の子どもは擦りむいたりケガをするような遊びをしません。まあ、大きな声ではいえませんが、ちょっとくらいいたずらをしてもいいし、我々教師を困らせるくらいの元気があってもいいんですよ。先日も、私のところに1年生の男の子が3人で来たんですよ。工事のために立入禁止になっているところの栗の実を取りに行きたいと言うんです。工事のおじさんに頼んでもいいかと(笑)。そうしたら工事現場の人がいっぱい取ってくれた。その栗をどうするのかと思っていたら、他のクラスの子にも配っていました。いい子でしょう。次の日は、2年生にもあげたいと言って、また工事のおじさんに頼んだらしい(笑)。2年生の子のお礼の手紙が工事事務所に掲示されています。子どもというのはすばらしいですね。そういうことを思いついたり、すぐ行動に移すのが、いわゆる「やんちゃな子」なんです。 |
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●思考力と集中力を生み出す「凝念」の習慣 ──ところで、こちらは英語教育にも熱心ですね。 清水 この学校は昭和25年にできましたが、その当時から、創設者は小学校からの英語教育の必要性を考えていたようです。海外の教育視察をしたときに、これからは日本だけに留まらずに、広く世界に向かっていく人間を育てないといけないということから、小さいうちから英語に親しむ習慣をつけたらどうか、ということで始めました。ここ10年来の卒業生の進路を見ると、海外に出て活躍している子が増えています。世の中が変わってきたこともありますが、小さいときから英語に親しんできた結果、海外に出ていくことにあまり抵抗感がないのかもしれませんね。小学校で準2級の子が数名います。
──どういう教え方をしていますか。 清水 幼稚園から英語は遊びとして採り入れています。教師は外国人教師です。小学校では、遊びながら簡単な英会話をしてます。1〜3年まではアメリカ人教師が週1時間ずつ。4年以上は年間50時間です。中学に入ると、簡単な日常会話なら英語で話せます。小学校1〜3年生を教えているアメリカ人は、私達以上にきれいな日本語を話しますが、授業中は日本語は使いません。
──学校創立以来の伝統として、「凝念」を取り入れていますね。どういうものですか。 清水 簡単に申し上げると、授業が始まる前、終わったとき、それから集中的に何かに取り組むときに、目を閉じて姿勢を正し、心を落ちつかせることです。ものごとに取り組む心構えを養うのが狙いです。朝目が覚めてから夜寝るまでずっと同じ精神状態のままという人はいません。1日のうちでも緩急をつけるというか、ぐっと集中しなければいけない時間もあれば緊張を緩めてリラックスする時間も必要です。そうでなければ集中して何かに取り組むということはできません。遊びでも運動でも勉強でも、他のことは考えないで夢中になる、熱中する、集中する、自分をそのようにコントロールする必要がある。そのために「凝念」を取り入れています。現代は忙しすぎますね、大人も子どもも。短時間でもいいから、心を無にするという瞬間が必要だと思います。この「凝念」が、学力の向上はもちろんのこと、人間性を高めるのに大きくかかわっているように思います。
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【校長】清水正人 |